弱酸性陽イオン交換樹脂

弱酸性陽イオン交換樹脂は下記の化学構造のようにカルボン酸基(-COOH)を交換基として持つ樹脂で、酢酸等と同様に弱酸性を示し、NaOHなどの塩基や、NaHCO3のような弱酸の塩を交換することができます。

化学構造的にメタクリル酸系とアクリル酸系の2つの種類があり、その違いは交換基の酸性度が異なります。このため、メタクリル酸系の使用できるpH範囲は約5以上であり、アクリル酸系は約4以上です。
使用できるpH範囲に制限があるため強酸性陽イオン交換樹脂に比べて用途は限られますが、後述のようにH形に再生しやすいという特長を持っています。

弱酸性陽イオン交換樹脂の化学構造

1)メタクリル酸系弱酸性陽イオン交換樹脂

2)アクリル酸系弱酸性陽イオン交換樹脂

交換基であるカルボン酸基(-COOH)は酸性中では解離しないため、(1)式のようなイオン交換によって鉱酸が生成して強酸性になるNaClやNa2SO4のような中性塩は分解できませんが、NaOH等の塩基やNaHCO3のような弱酸の塩は(2)、(3)式のように交換することが出来ます。

R-COOH + NaCl ← R-COONa + HCl (1)
R-COOH + NaOH → R-COONa + H2O (2)
R-COOH + NaHCO3 ⇔ R-COONa + H2O + CO2(3)

(Rはイオン交換樹脂の母体を示します。)

弱酸性陽イオン交換樹脂の各種イオンに対する吸着の強さ(選択性)は強酸性陽イオン交換樹脂と大体類似していて、価数が高いイオン程選択性が大きくなりますが、Hイオンに対する選択性が非常に大きいのが特徴です。
このため、Hイオンが他の陽イオンで交換された後、薬剤(一般的に塩酸または硫酸水溶液)を使用してR-COOHの形に戻して繰り返し使用する時の再生が容易であり、理論化学当量より僅かに多い程度の薬剤量で再生が可能です。

アクリル酸系の弱酸性陽イオン交換樹脂は酸性度がやや高いため、炭酸塩硬度が高い水の処理に使用されます。強酸性陽イオン交換樹脂と組み合わせた脱塩装置では、強酸性陽イオン交換樹脂の再生廃液でも再生できるので再生剤の節約になります。

一方、メタクリル酸系の弱酸性陽イオン交換樹脂はやや酸性度が低いため水処理にはほとんど使用されず、抗生物質やアミノ酸の精製等に使用されます。

弱酸性樹脂の欠点はH形から他のイオン形に変わった時に急激な体積変化があることです。樹脂によっては2倍近くに膨潤しますので、小型カラムでは通液圧損失が増大し、時にはカラムを破損することさえあるので十分な注意が必要です。